みらいへの想い
介護職は、未来をつくる職業だ。課題“解決”先進都市を目指す北九州市のビジョンとは?
目次
課題先進都市から課題“解決”先進都市へ
──北九州市における介護の課題を教えてください。
まず前提として、北九州市は高齢者数29万人、高齢化率31.2%(令和5年1月1日時点)と、すべての政令指定都市の中で最も高齢化が進んだ都市です。要介護認定率も非常に高く、一人あたりの高齢者医療費も政令指定都市の中で突出しています。他地域に比べても、介護人材の確保が喫緊の課題といえます。
また高齢化や人口減少の影響で、住民同士のつながりが弱くなっています。地域包括ケアシステムの重要性が高まる中、医療と介護が連携し、過度の医療依存を減らしていく仕組みづくりが必要になっています。
──そういった課題に、どのように取り組まれているのでしょうか?
確かに課題は多いのですが、ピンチをチャンスと捉えることが大切だと考えています。こうした課題を乗り越えていけば、自然と課題“解決”先進都市として注目されていくはずです。
2016年、介護ロボット等を活用した「先進的介護」の実証実装が国家戦略特区の事業として、北九州市が認定を受けました。地道な取り組みのおかげで、ICTや介護ロボットなど、テクノロジーを活用した介護が進んでいます。北九州市の介護は「チャレンジ」を体現してきており、課題解決の素地があるといえるでしょう。
──確かに北九州市の介護は、全国的に注目されている印象を受けます。
現場の方々の頑張りはもちろん、介護事業者の経営者が、リーダーとして北九州市の介護を引っ張ってくれているのも大きいですね。例えば社会福祉法人もやい聖友会の理事長は、「赤ちゃん職員」という取り組みを発案されました。3歳以下の赤ちゃんが施設で自由に過ごすことで、高齢者の表情が明るくなるというものです。ユニークな取り組みだと、海外メディアからも評価されました。
私は大学卒業後、厚生労働省に入省し、医療・介護・障害・子育て・少子高齢化対策に従事してきました。厚生労働省と連携をとりながら、これからの高齢社会における「あるべき姿」を市民の皆さんと共につくっていきたいと考えています。
介護職にベクトルを合わせた施策を
──介護の「あるべき姿」をつくる上で、武内市長が最も大切だと思うことは何ですか?
介護業界で働く方々にやりがいを感じていただくことです。すべての施策は、介護人材にベクトルを合わせていくべきだと思いますね。
──具体的に、どのような観点でしょうか?
一つ目は、「成長できる介護職」であることです。仕事を通じて、自らのスキルを高めていただく。それが可視化され、評価される仕組みをつくるべきです。一人ひとりがプロフェッショナルと自覚いただくことが、やりがいにもつながっていくはずです。
二つ目は、「つながれる介護職」であることです。事業者の枠を超えて、横につながることでお互いの経験をシェアしたり、交流したりすることが大切です。時には支え合うことも必要でしょう。これらの枠組みが広がって、地域や異業種で働く人たちとつながっていくと良いですよね。
三つ目は、「声をあげられる介護職」であることです。介護保険制度は公的な仕組みであり、国や行政によって施策や報酬が決定されることが多いです。私はこういった官主導の決め方を逆にして、現場の総意や新しい課題発見などがボトムアップでなされていくべきだと考えています。困ったことはどんどん声をあげていく。現場主導で働きやすい環境づくりを意識的につくっていきたいと思います。
北九州市の介護の仕組みを、「そと」に広げていく
──武内市長は「稼げるまち」への挑戦を掲げています。どのようなビジョンを見据えているか教えてください。
私たちは北九州市の人口減少を食い止め、100万人都市の復活に挑戦します。そこで重要なのが「稼げるまち」というビジョンです。前例踏襲を打破し、挑戦する人をサポートするまちづくりへとシフトさせていきたいですね。特に若い世代が活躍できるよう、創業支援や、次世代・グローバル産業の誘致・強化といった取り組みに注力していきます。
──人材育成への注力も欠かせませんね。
おっしゃる通りです。介護職の方々に成長ややりがいを実感できるよう施策を進めていきます。
介護業界で働く方々のスキルやホスピタリティ、現場のオペレーションなどは異業種・異職種と比べて非常に高い水準です。介護職のキャリア形成を後押しし、培われたスキルやノウハウは異業種・異職種でも展開していってほしいですね。アパレルや旅行、小売など、様々な業界を横断するような構想も描いていきたいと思います。
中長期的には、北九州市の介護の仕組みやオペレーションを、新しい市場に出していく挑戦も考えています。これから高齢化が進んでいく中国やインドにとって、テクノロジーと組み合わせた介護のノウハウは重宝されるはずですから。トヨタの「カイゼン」のシステムが海外に輸出されていったように、北九州市の介護の仕組みが世界に広まっていくのも素晴らしいことだと感じています。
未来の介護を一緒につくろう
──介護職の皆さんには、どんなことを意識して仕事に取り組んでほしいですか?
違和感を大切にしてほしいですね。介護に限らず、普段感じている違和感は、課題解決のヒントになることが多いんです。「この採用のチラシって、求職者に有益な内容を提供しているだろうか?」など、身の回りの違和感があれば積極的に周りに伝えてください。
また、周囲の「声」を聞く時間を意識的に設けることもお勧めします。何かに困っている方が、常に声をあげるとは限りません。色々な方の声に耳を澄ませ、そこから生まれるインスピレーションやアイデアを大事にしてほしいと思います。
──最後に、北九州市で介護職として働く皆さんや、これから介護職を目指す方々に向けてメッセージをお願いします。
北九州市は課題“解決”先進都市になるため、たくさんのチャレンジを続けていきます。その重要な要素を担う介護職は、今後ますますエキサイティングな職業になっていくはず。ぜひ私たちと一緒に、未来の介護を一緒につくっていきましょう。