みらいへの想い
北九州市は、介護現場での体験や経験を通じて様々な方に介護業界に関心を持ってもらい、地域ぐるみで介護を支える「介護シェアリング都市」の実現を目指しています。そのため、2024年に「Sketter(スケッター)」を提供する株式会社プラスロボと連携協定を締結しました。スケッターとは、介護現場において資格や経験を必要としない一般業務のお手伝いを求めている介護施設と、サポートしたい人をつなぐマッチングサービスです。
「スケッター」で地域住民が介護業界を支えるロールモデルを目指す | 介護のみらいをつなぐ 北九州
今回、実際にスケッターを通してお手伝いを経験し、現在はアルバイトスタッフとして働く白石さんと、スケッターを導入している社会福祉法人いわき福祉会 やすらぎの郷牧山の舌間さんにお話を伺いました。
知らなかった、介護の現場。スケッターがイメージを変えた
白石さん:
スケッターを知ったきっかけは、ある日、スケッターのチラシが家に届いたことでした。私は理学療法士を目指して大学で学んでいるため、両親から「将来の勉強にもなるんじゃない?」と勧められ、登録してみました。とはいえ、すぐに「お手伝い」に応募できたわけではありません。それまで介護施設に行ったことがなく、「自分にできるだろうか」という不安が大きかったんです。
ですが、大学の授業で車椅子の使い方やリハビリについて学んだこともあり、「いつか自分が働くかもしれない現場の雰囲気を知っておくことは、大きな経験になるかもしれない」と思うようになりました。スケッターは、自分の予定に合わせてお手伝いを選べるため、家から通いやすかった、やすらぎの郷牧山の居室のお掃除の募集に応募しました。

初日はとても緊張しましたが、職員の方々が丁寧にコミュニケーションをとってくださり、分からないことはすぐに教えてくれたので、安心して取り組むことができました。訪問する前は、「介護の現場=体力的にも精神的にもきつい仕事」というイメージがありましたが、実際は職員同士の会話も多く、みなさんが自然と助け合う雰囲気で「働きやすい職場なんだ」と気づきました。
スケッターからアルバイトへ。「ありがとう」が私のやりがい
白石さん:
これまで、やすらぎの郷牧山で何度かスケッターとしてお手伝いをしていますが、「また来たい」と思える一番の理由は、利用者さんの「ありがとう」の言葉です。居室の掃除や洗濯物を届けるたびに、笑顔で感謝の言葉をかけていただける。その瞬間に、自分が誰かの役に立てている実感が湧き、もっと力になりたいと思うようになりました。
そんな折、「アルバイトとして勤務しませんか?」と声をかけていただいたんです。スケッターで現場を知り、利用者さんと関わる楽しさや、職員の方とのコミュニケーションの取りやすさを実感していたこともあり、素直に「やってみたい」と思えました。今では週に1回、掃除や洗濯に加え、レクリエーションの企画や付き添いなど、スケッターのときと同じようにお手伝いを続けています。

私生活では高齢者の方と接する機会がほとんどなかったので、スケッターがなければ介護施設でアルバイトをする選択肢はきっと生まれていなかったと思います。まずは「お手伝い」として現場に触れたことで、介護の仕事の楽しさを知ることができました。今は、将来の進路のなかに「介護施設で働く」という可能性も視野に入れながら、日々学びを深めています。
専門職が専門職として働くために。
小さなニーズに応えるスケッター
舌間さん:
当施設は、2025年3月 からスケッターを導入しています。導入のきっかけは、北九州市の介護保険課からお声がけいただいたことですが、実は3〜4年前から法人内でICT化を積極的に進めていました。北九州市は高齢化率が高い一方、人口減少によって高齢者数そのものは減っています。今後、利用者も働き手も少なくなることを見据え、持続的に施設を運営していくために、デジタル化は不可欠だと考えてきました。

そこで私たちは、まず介護ロボットなどの機械に任せられる業務と、人間が担うべき業務を整理し、さらに人間が担う業務のなかでも、専門職でなければできない仕事と、一般の方でも担える仕事に分けていきました。洗濯・掃除・ベッドメイク・居室の整理といった、専門性を必要としない生活支援は介護現場に数多くあります。しかし、これらも長らく専門職が担ってきたため、本来の専門業務の時間を圧迫していたのです。「洗濯物を利用者さんの居室に片付けてほしい」「数時間だけ掃除をお願いしたい」こうした小さなニーズとマッチしていたのが、スケッターでした。
のべ100名が参加。施設の雰囲気にも変化が
舌間さん:
これまで、のべ100名ほどが当施設でスケッターとしてお手伝いしてくれました。20代から70代まで幅広く、初めて介護に触れる方もいらっしゃいます。なかでも印象的だったのが、レクリエーション企画と掃除の募集に応募してくださった30代のスケッターさんです。他施設でのお手伝い経験があり、「紙芝居をしてみたいです」と自ら提案してくれたんですね。効果音やクイズを交えた紙芝居はエンターテイメント性が高く、利用者さんからも大好評でした。
スケッター導入後、施設には良い変化が生まれています。まず、外部の方が来てくださることで職員にも利用者にも新しい風が入り、コミュニケーションが活発になりました。また、生活支援を担っていただくことで職員に時間の余白が生まれ、より専門的な業務に集中できるように。一人ひとりに寄り添う介助の時間が増え、ケアの質も高まったと感じています。
スケッターの受け入れにあたっては、不安がないよう駐車場や更衣室の有無、持ち物、当日の流れなどを最初のメールで丁寧にお知らせしています。最初のお手伝いが、介護に触れる初めての入口の方もいらっしゃるため、できるだけハードルを下げてお迎えすることを大切にしています。そして、スケッターでの出会いがその後の関わりにつながることもあるんですよ。
白石さんとの出会いがまさにです。
利用者さんへの対応力やきめ細やかな動きからこれからもお手伝いをお願いしたいと思い、アルバイトスタッフとして勤務してみないか、と声をかけました。利用者さんも彼女をお孫さんのように可愛がっており、その様子を見ていると微笑ましくなりますね。

