みらいへの想い
「答え」を急がず、本人の思いを大切に。チームでつなぐ、安心のネットワーク
「介護が必要かもしれないけど、何から始めたらいいのか分からない」
「病院へ行ってほしいけれど、本人が頑なに拒んでいて……」
「物忘れが増えてきて、お金の管理ができなくなっているかもしれない」
こうした、保健・医療・福祉・介護に関する幅広い相談に対応するために、設置されているのが「地域包括支援センター(以下、包括)」です。
現在、北九州市では24か所の包括を市内7区の区役所保健福祉課内に設置しています。加えて、7区に1か所ずつ統括支援センター(基幹型の包括)を設置し、包括の後方支援を行っています。
包括の主な業務は、①総合相談支援、②権利擁護、③包括的・継続的ケアマネジメント、④介護予防ケアマネジメントの4つ。
まずは、高齢者やそのご家族が抱える「生活の困りごと」に耳を傾けること。その上で、介護サービスや医療機関の紹介など、一人ひとりに適した支援を行っています。住み慣れた地域での安心した暮らしを支える「総合相談窓口」として、地域住民の強い味方です。

実際のところ、北九州市に寄せられる年間相談件数は約22万件にものぼります。高齢化率は全国平均を上回る31.6%という地域の実情もあり、日々多くの相談に対応する、地域のセーフティネットとして機能しています。
しかし、「包括って具体的に何をしてくれるの?」と思っている方も、もしかしたら多いかもしれません。
今回は市内7区に設置された包括のうち、八幡西区の包括で働く3人の専門職、保健師の井浦 由莉さん、社会福祉士の杉本 成華さん、主任ケアマネジャー(主任介護支援専門員)の正田 宗子さんにそれぞれの立場から、包括の仕事やその魅力などについてお伺いしました。

何気ない報告から始まる、包括の仕事
総合相談窓口としてまずは電話相談から始まることが多い包括。
しかし、寄せられる最初の相談がご本人ではなく、「元気だったあの方を最近見かけない」「体調が悪そうだ」など近所の方や地域の見守り・相談役である民生委員からの何気ない報告で、支援が始まることも珍しくないといいます。
主任ケアマネジャーの正田さん
「包括で見守り訪問をしていた身寄りのない高齢者がいました。
近所の方から『体調が悪そう』と連絡を受け訪問したところ、持病の悪化で寝返りを打てない状態。病院の受診も拒まれましたが、本人の『最後は家で過ごしたい』という希望を叶えるため、かかりつけ医に往診してもらい治療を受けることができました。
また、介護保険の契約時に緊急連絡先が見つからないという壁もありましたが、長年付き合いのあった近所の方が親族を見つけ出してつないでくれたんです。
親族からもお礼の言葉をいただき、結果として介護サービスを受けられて本人が希望するご自宅で亡くなられました。
地域の方が持つ長年の関係性と、私たち専門職、お互いの強みを生かして連携できた、忘れられない出来事です」

保健師の井浦さん
「私も近隣の方の相談をきっかけに訪問を始めた方がいました。
病院が苦手で受診を強く拒否されていたため、繰り返し訪問をしていました。
ある日、自宅で倒れているのを発見したんです。それでも『家がいい』と訴えるご本人に対し、今の状態の緊急性をご説明。訪問診療の導入に納得していただきました。
その結果、最後まで自宅で過ごすことができたんです。医療的な判断はもちろんですが、ご本人の気持ちを大切にするため、粘り強く対応した事例です」

このように、何気ない相談が孤立しがちな高齢者を支援するきっかけになります。
包括は、単なる手続きをする窓口ではなく、地域と専門職が手を取り合い、社会とのつながりを作り直す大切な存在なのです。
「正しさ」よりも「その人らしさ」を。背景や価値観に寄り添う支援
そんな包括に寄せられる相談や困りごとはさまざま。
足腰が弱って病院に受診ができない、虐待を受けている、金銭管理ができずに生活に必要な食料の確保ができないなど、命の危険が及ぶケースもあり、複雑に問題が絡み合っていることも多いのだそうです。
社会福祉士の杉本さん
「ある一人暮らしの高齢者の方がいたのですが、認知症が進行し、通帳を紛失して食料も十分に確保できていない状況でした。警察からの連絡で包括が介入しましたが、ご本人の強い願いは『生まれ育ったこのまちで、これからも暮らし続けたい』ということ。
その思いを最優先しながら、権利を守るために、判断能力が低下したご本人に代わって金銭管理や契約を行う成年後見制度の活用を提案したり、必要な医療機関への受診につなげたりしました。
必要なサービスの提案はもちろんですが、相手がこれまでどんな人生を過ごして、どんな価値観を持っているのか。そして、どう生きていきたいかというご本人の意思を一番に尊重することが大切なのです。
一方的に制度に当てはめることなく、対話を通じて状況を整理し、その人にとって最適な形を探し出して提案をすること。つまりそれは、効率的な解決ではなく、納得感のある解決です。
たとえそれが遠回りのように見えたとしても、本人の意思を置き去りにせず、最適な形の安心を一緒に探していくのが包括の支援といえます」

3つの専門的な視点が交差するチーム連携
このように「その人らしさ」を大切にした支援を続けていくために、包括では保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員という異なる3職種が一つのチームとして連携し、それぞれの専門領域から意見を出し合っています。
一つのケースに対して、常に意見が飛び交う環境であることから、その人に合った最適な支援が見えてくるといいます。
保健師の井浦さん
「入院を拒否する方の中には最後までお家で過ごしたいという気持ちが強い方がいます。その思いを叶えるために、訪問診療の調整や疾患の状態から受診の緊急性を判断します。
医療機関での看護師経験を生かし、予防的な視点で重症化を防ぐよう心掛けています」
社会福祉士の杉本さん
「社会福祉士は、判断能力が低下した方の金銭管理や虐待防止、権利を守る役割を担います。自分では声を上げられない方の代わりにその方の権利を守るお手伝いをする。
福祉の制度を組み合わせて安心できる環境を整えています」
主任ケアマネジャーの正田さん
「介護保険サービスの調整だけでなく、介護予防の視点でアセスメントを行っています。公的な制度以外にも、地域内での集まりや健康教室、配食サービスの案内なども積極的に提案しています。
チーム連携以外にも、私たちが働いている八幡西区の包括は区役所内に設置されているため、障害福祉や生活保護、金銭相談の窓口とも密に連携できるのが大きな強みです。
他の窓口も同じフロアや同じ建物の中にあるため、複雑な問題が絡み合っているケースであっても、すぐ他部署の職員と連携し協議して、迅速に動くことができるのです」

支援のゴールは「サービスの提供」ではなく、地域の中で「その人らしく暮らしていくこと」
包括は相談業務に対応するだけでなく、地域全体で高齢者を見守り、支え合う環境を作ることも大切な業務の一つです。
保健師の井浦さん
「個別の支援だけでなく、住民主体で運営されている高齢者の集まりなどに私たちも出向き、介護予防や介護保険制度について話したりもします。
地域の中で開催されている会議に出向くことで、いろんな課題を一緒に見つけて、地域全体で解決したいと思っています」
社会福祉士の杉本さん
「包括の仕事の紹介も兼ねて、認知症への理解を広めるために、地域住民と民生委員の方々と一緒に寸劇を作ったこともありました。
寸劇では、火の不始末を心配する近所の方と家で料理を続けたい認知症の方が登場。それぞれの思いのズレを埋めて、どうすれば地域で安心して支え合えるかを劇を通じて一緒に考えました。
寸劇を行ったことで、包括に相談しやすい環境が生まれたと思います」
制度を当てはめるだけの専門的な支援だけでなく、「その人らしい生活」を支えていくためには、
地域全体で高齢者を見守る温かな空気感を作ること。
包括の専門性と地域の力が掛け合わさったとき、初めて理想の支援が形になります。
そんな支援を目指す3人に、包括の仕事に対する思いについて語っていただきました。

保健師の井浦さん
「医療機関で働いていたとき、予防や再発の支援が難しいと感じていました。
包括はチームで連携してその人の暮らし全体を支えられる仕事です。
その人らしく生きていくこと、その人の生活に応じた個別支援ができることにとてもやりがいを感じています」
社会福祉士の杉本さん
「包括では、相談内容も障害や認知症など多岐にわたります。
日々の業務の中で、自分の専門分野以外の知識も、チームで連携して考える中で、新たな視点に触れられて技術が向上できているなと感じています。
誰もが当たり前に自然に守られて当然の権利をこの包括を通して支援していきたいですね」
主任ケアマネジャーの正田さん
「ケアマネジャーとして介護保険サービスを利用する人を支える仕事だと思われがちですが、包括はそれ以外の支援もできます。
そして、それをチームで行うことが何よりの魅力です。私たち一つひとつの動きが地域や社会をより良くしていくことにつながるので、それがうれしいんです。そういう素敵な仕事ですね」
専門的な視点とチーム連携、そして地域とのつながり。その全てを掛け合わせながら、包括の仕事は続いていきます。
一人ひとりが住み慣れた場所で、自分らしく明日を迎えられるように、これからもサポートしていくのです。

